[インデックス 19425] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のリンカ (cmd/ld
) におけるNetBSDプラットフォーム向けのELF (Executable and Linkable Format) ノートのサイズ計算に関するバグ修正です。具体的には、NetBSD固有のELFノートのnamesz
(名前のサイズ) と descsz
(記述子のサイズ) の計算において、4バイトアライメントを考慮するように変更されています。
コミット
commit 775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7
Author: Benny Siegert <bsiegert@gmail.com>
Date: Wed May 21 06:18:45 2014 -0700
cmd/ld: correctly compute note size on NetBSD.
Patch from http://gnats.NetBSD.org/48811.
LGTM=iant
R=golang-codereviews, minux.ma, iant
CC=golang-codereviews, tk
https://golang.org/cl/94670047
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7
元コミット内容
cmd/ld: correctly compute note size on NetBSD.
Patch from http://gnats.NetBSD.org/48811.
LGTM=iant
R=golang-codereviews, minux.ma, iant
CC=golang-codereviews, tk
https://golang.org/cl/94670047
変更の背景
この変更は、NetBSDシステム上でGoプログラムをリンクする際に発生していた問題に対処するためのものです。ELFファイル内のノートセクションのサイズ計算が不正確であったため、リンカが生成するバイナリがNetBSDの期待する形式と合致せず、実行時エラーや予期せぬ動作を引き起こす可能性がありました。コミットメッセージに記載されている http://gnats.NetBSD.org/48811
のパッチがこの問題の根本原因と解決策を提供しています。このパッチは、ELFノートのフィールドが特定のバイト境界(この場合は4バイト)にアラインされている必要があるというELF仕様またはNetBSDの慣習に起因するものでした。
前提知識の解説
ELF (Executable and Linkable Format)
ELFは、Unix系オペレーティングシステム(Linux、BSD、Solarisなど)で広く使用されている、実行可能ファイル、オブジェクトコード、共有ライブラリ、およびコアダンプファイルの標準ファイル形式です。ELFファイルは、ヘッダ、プログラムヘッダテーブル、セクションヘッダテーブル、および様々なセクション(.text, .data, .rodataなど)で構成されます。
ELFノートセクション
ELFファイルには、PT_NOTE
または SHT_NOTE
タイプを持つ特別なセクションを含めることができます。これらは「ノートセクション」と呼ばれ、システム固有の情報を格納するために使用されます。例えば、OSのバージョン情報、ビルド情報、またはデバッグ情報などが含まれることがあります。各ノートエントリは通常、以下の構造を持ちます。
n_namesz
: ノートの所有者名のサイズ(バイト単位)。n_descsz
: ノートの記述子のサイズ(バイト単位)。n_type
: ノートのタイプ。name
: ノートの所有者名。desc
: ノートの記述子。
これらのフィールドは、多くの場合、特定のバイト境界にアラインされる必要があります。
リンカ (cmd/ld
)
Go言語のツールチェインにおいて、cmd/ld
はGoプログラムをコンパイルしたオブジェクトファイルを結合し、最終的な実行可能バイナリを生成するリンカです。リンカは、オブジェクトファイルのセクションを配置し、シンボルを解決し、必要に応じてELFヘッダやセクションを生成する役割を担います。
バイトアライメント
バイトアライメントとは、データがメモリやファイル内で特定のバイト数の倍数のアドレスに配置されることを指します。例えば、4バイトアライメントとは、データが4の倍数のアドレスに配置されることを意味します。これは、プロセッサが効率的にデータを読み書きできるようにするため、または特定のハードウェア要件を満たすために重要です。ELFファイルでは、セクションやノートエントリの内部フィールドがアライメント要件を持つことがよくあります。
rnd(x, n)
関数
rnd(x, n)
は、x
を n
の最も近い倍数に切り上げる(ラウンドアップする)一般的な関数です。例えば、rnd(7, 4)
は 8
になります。これは、データが特定のバイト境界にアラインされるようにするために使用されます。
技術的詳細
このコミットの核心は、NetBSDにおけるELFノートのサイズ計算の修正です。以前のコードでは、ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ
と ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ
の合計に単純に + 1
を加えていました。これは、おそらく終端バイトや何らかのオフセットを考慮したものと思われますが、NetBSDのELFノートの実際の構造とアライメント要件を正確に反映していませんでした。
ELFノートのname
とdesc
フィールドは、通常、4バイト境界にアラインされる必要があります。これは、ELF仕様の一部として、または特定のシステム(この場合はNetBSD)のABI (Application Binary Interface) の要件として定められていることが多いです。以前の計算では、これらのフィールドの実際のサイズが4バイトの倍数でない場合、次のフィールドが正しくアラインされず、結果としてELFファイルの構造が破損したり、システムがファイルを正しく解釈できなくなったりする可能性がありました。
新しい計算 rnd(ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ, 4) + rnd(ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ, 4)
は、namesz
と descsz
のそれぞれを個別に4バイトの倍数に切り上げてから合計しています。これにより、各フィールドが正しくアラインされ、ELFノート全体のサイズもNetBSDが期待する形式に合致するようになります。この修正によって、NetBSD上で生成されるGoの実行可能ファイルがELF仕様に準拠し、安定して動作するようになります。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/cmd/ld/elf.c
ファイルの elfnetbsdsig
関数内で行われています。
--- a/src/cmd/ld/elf.c
+++ b/src/cmd/ld/elf.c
@@ -388,7 +388,7 @@ elfnetbsdsig(ElfShdr *sh, uint64 startva, uint64 resoff)
{\n \tint n;\n \n-\tn = ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ + ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ + 1;\n+\tn = rnd(ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ, 4) + rnd(ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ, 4);\n \treturn elfnote(sh, startva, resoff, n);\n }\n \n```
## コアとなるコードの解説
`elfnetbsdsig` 関数は、NetBSD固有のELFノートの署名(signature)を処理する際に呼び出される関数です。この関数内で、`n` という変数がELFノートの合計サイズを計算するために使用されています。
* **変更前**:
```c
n = ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ + ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ + 1;
```
この行では、NetBSDノートの名前サイズ (`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ`) と記述子サイズ (`ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ`) を単純に合計し、さらに `+ 1` を加えていました。この `+ 1` の目的は不明ですが、アライメント要件を考慮していなかったため、問題を引き起こしていました。
* **変更後**:
```c
n = rnd(ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ, 4) + rnd(ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ, 4);
```
この行では、`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ` と `ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ` のそれぞれを `rnd` 関数を使って4の倍数に切り上げてから合計しています。これにより、各フィールドが4バイト境界に正しくアラインされ、NetBSDが期待するELFノートのサイズが正確に計算されるようになります。`rnd(x, 4)` は、`x` が4の倍数でない場合に、`x` を超える最小の4の倍数を返します。例えば、`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ` が7バイトの場合、`rnd(7, 4)` は8を返します。
この修正により、GoリンカがNetBSD向けに生成するELFバイナリのノートセクションが、NetBSDのシステム要件に完全に準拠するようになり、互換性の問題が解消されます。
## 関連リンク
* **GitHubコミットページ**: [https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7](https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7)
* **Go CL (Code Review)**: [https://golang.org/cl/94670047](https://golang.org/cl/94670047)
* **NetBSD GNATS Bug Report**: [http://gnats.NetBSD.org/48811](http://gnats.NetBSD.org/48811)
## 参考にした情報源リンク
* コミットメッセージと差分 (`./commit_data/19425.txt`)
* ELF (Executable and Linkable Format) の一般的な知識
* バイトアライメントに関する一般的な知識
* NetBSD GNATS Bug Report 48811 (詳細な内容については、リンク先の情報を参照)
* Go言語のリンカ (`cmd/ld`) の役割に関する一般的な知識
I have generated the detailed explanation. I will now perform a web search for the GNATS bug report to see if I can add more specific details about the problem it describes.# [インデックス 19425] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のリンカ (`cmd/ld`) におけるNetBSDプラットフォーム向けのELF (Executable and Linkable Format) ノートのサイズ計算に関するバグ修正です。具体的には、NetBSD固有のELFノートの`namesz` (名前のサイズ) と `descsz` (記述子のサイズ) の計算において、4バイトアライメントを考慮するように変更されています。
## コミット
commit 775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7 Author: Benny Siegert bsiegert@gmail.com Date: Wed May 21 06:18:45 2014 -0700
cmd/ld: correctly compute note size on NetBSD.
Patch from http://gnats.NetBSD.org/48811.
LGTM=iant
R=golang-codereviews, minux.ma, iant
CC=golang-codereviews, tk
https://golang.org/cl/94670047
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7](https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7)
## 元コミット内容
cmd/ld: correctly compute note size on NetBSD.
Patch from http://gnats.NetBSD.org/48811.
LGTM=iant R=golang-codereviews, minux.ma, iant CC=golang-codereviews, tk https://golang.org/cl/94670047
## 変更の背景
この変更は、NetBSDシステム上でGoプログラムをリンクする際に発生していた問題に対処するためのものです。ELFファイル内のノートセクションのサイズ計算が不正確であったため、リンカが生成するバイナリがNetBSDの期待する形式と合致せず、実行時エラーや予期せぬ動作を引き起こす可能性がありました。コミットメッセージに記載されている `http://gnats.NetBSD.org/48811` のパッチがこの問題の根本原因と解決策を提供しています。このパッチは、ELFノートのフィールドが特定のバイト境界(この場合は4バイト)にアラインされている必要があるというELF仕様またはNetBSDの慣習に起因するものでした。
## 前提知識の解説
### ELF (Executable and Linkable Format)
ELFは、Unix系オペレーティングシステム(Linux、BSD、Solarisなど)で広く使用されている、実行可能ファイル、オブジェクトコード、共有ライブラリ、およびコアダンプファイルの標準ファイル形式です。ELFファイルは、ヘッダ、プログラムヘッダテーブル、セクションヘッダテーブル、および様々なセクション(.text, .data, .rodataなど)で構成されます。
### ELFノートセクション
ELFファイルには、`PT_NOTE` または `SHT_NOTE` タイプを持つ特別なセクションを含めることができます。これらは「ノートセクション」と呼ばれ、システム固有の情報を格納するために使用されます。例えば、OSのバージョン情報、ビルド情報、またはデバッグ情報などが含まれることがあります。各ノートエントリは通常、以下の構造を持ちます。
* `n_namesz`: ノートの所有者名のサイズ(バイト単位)。
* `n_descsz`: ノートの記述子のサイズ(バイト単位)。
* `n_type`: ノートのタイプ。
* `name`: ノートの所有者名。
* `desc`: ノートの記述子。
これらのフィールドは、多くの場合、特定のバイト境界にアラインされる必要があります。
### リンカ (`cmd/ld`)
Go言語のツールチェインにおいて、`cmd/ld` はGoプログラムをコンパイルしたオブジェクトファイルを結合し、最終的な実行可能バイナリを生成するリンカです。リンカは、オブジェクトファイルのセクションを配置し、シンボルを解決し、必要に応じてELFヘッダやセクションを生成する役割を担います。
### バイトアライメント
バイトアライメントとは、データがメモリやファイル内で特定のバイト数の倍数のアドレスに配置されることを指します。例えば、4バイトアライメントとは、データが4の倍数のアドレスに配置されることを意味します。これは、プロセッサが効率的にデータを読み書きできるようにするため、または特定のハードウェア要件を満たすために重要です。ELFファイルでは、セクションやノートエントリの内部フィールドがアライメント要件を持つことがよくあります。
### `rnd(x, n)` 関数
`rnd(x, n)` は、`x` を `n` の最も近い倍数に切り上げる(ラウンドアップする)一般的な関数です。例えば、`rnd(7, 4)` は `8` になります。これは、データが特定のバイト境界にアラインされるようにするために使用されます。
## 技術的詳細
このコミットの核心は、NetBSDにおけるELFノートのサイズ計算の修正です。以前のコードでは、`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ` と `ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ` の合計に単純に `+ 1` を加えていました。これは、おそらく終端バイトや何らかのオフセットを考慮したものと思われますが、NetBSDのELFノートの実際の構造とアライメント要件を正確に反映していませんでした。
ELFノートの`name`と`desc`フィールドは、通常、4バイト境界にアラインされる必要があります。これは、ELF仕様の一部として、または特定のシステム(この場合はNetBSD)のABI (Application Binary Interface) の要件として定められていることが多いです。以前の計算では、これらのフィールドの実際のサイズが4バイトの倍数でない場合、次のフィールドが正しくアラインされず、結果としてELFファイルの構造が破損したり、システムがファイルを正しく解釈できなくなったりする可能性がありました。
新しい計算 `rnd(ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ, 4) + rnd(ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ, 4)` は、`namesz` と `descsz` のそれぞれを個別に4バイトの倍数に切り上げてから合計しています。これにより、各フィールドが正しくアラインされ、ELFノート全体のサイズもNetBSDが期待する形式に合致するようになります。この修正によって、NetBSD上で生成されるGoの実行可能ファイルがELF仕様に準拠し、安定して動作するようになります。
## コアとなるコードの変更箇所
変更は `src/cmd/ld/elf.c` ファイルの `elfnetbsdsig` 関数内で行われています。
```diff
--- a/src/cmd/ld/elf.c
+++ b/src/cmd/ld/elf.c
@@ -388,7 +388,7 @@ elfnetbsdsig(ElfShdr *sh, uint64 startva, uint64 resoff)
{\n \tint n;\n \n-\tn = ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ + ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ + 1;\n+\tn = rnd(ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ, 4) + rnd(ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ, 4);\n \treturn elfnote(sh, startva, resoff, n);\n }\n \n```
## コアとなるコードの解説
`elfnetbsdsig` 関数は、NetBSD固有のELFノートの署名(signature)を処理する際に呼び出される関数です。この関数内で、`n` という変数がELFノートの合計サイズを計算するために使用されています。
* **変更前**:
```c
n = ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ + ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ + 1;
```
この行では、NetBSDノートの名前サイズ (`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ`) と記述子サイズ (`ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ`) を単純に合計し、さらに `+ 1` を加えていました。この `+ 1` の目的は不明ですが、アライメント要件を考慮していなかったため、問題を引き起こしていました。
* **変更後**:
```c
n = rnd(ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ, 4) + rnd(ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ, 4);
```
この行では、`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ` と `ELF_NOTE_NETBSD_DESCSZ` のそれぞれを `rnd` 関数を使って4の倍数に切り上げてから合計しています。これにより、各フィールドが4バイト境界に正しくアラインされ、NetBSDが期待するELFノートのサイズが正確に計算されるようになります。`rnd(x, 4)` は、`x` が4の倍数でない場合に、`x` を超える最小の4の倍数を返します。例えば、`ELF_NOTE_NETBSD_NAMESZ` が7バイトの場合、`rnd(7, 4)` は8を返します。
この修正により、GoリンカがNetBSD向けに生成するELFバイナリのノートセクションが、NetBSDのシステム要件に完全に準拠するようになり、互換性の問題が解消されます。
## 関連リンク
* **GitHubコミットページ**: [https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7](https://github.com/golang/go/commit/775719c6009289d76ee181150b5772cc0699ebb7)
* **Go CL (Code Review)**: [https://golang.org/cl/94670047](https://golang.org/cl/94670047)
* **NetBSD GNATS Bug Report**: [http://gnats.NetBSD.org/48811](http://gnats.NetBSD.org/48811)
* (注: このGNATSバグレポートは、公開されているデータベースでは見つけることができませんでした。非常に古いか、内部的なもの、またはリンクが変更された可能性があります。)
## 参考にした情報源リンク
* コミットメッセージと差分 (`./commit_data/19425.txt`)
* ELF (Executable and Linkable Format) の一般的な知識
* バイトアライメントに関する一般的な知識
* Go言語のリンカ (`cmd/ld`) の役割に関する一般的な知識
* Web検索 (`NetBSD gnats 48811`)