[インデックス 19683] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のツールチェインの一部である cmd/addr2line のテストファイル src/cmd/addr2line/addr2line_test.go に関連するものです。addr2line は、プログラムのアドレスをソースコードのファイル名と行番号に変換するためのユーティリティであり、主にデバッグ時にクラッシュレポートやスタックトレースを解析する際に使用されます。このテストファイルは、addr2line コマンドが正しく機能するかどうかを検証するためのテストケースを含んでいます。
コミット
commit 331bf64d175805f9060160c00dbf1290ae34c303
Author: David Crawshaw <david.crawshaw@zentus.com>
Date: Tue Jul 8 13:45:31 2014 -0400
cmd/addr2line: skip test on android
LGTM=minux
R=golang-codereviews, minux
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/104600043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/331bf64d175805f9060160c00dbf1290ae34c303
元コミット内容
cmd/addr2line: skip test on android
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語がサポートする多様なオペレーティングシステム(OS)環境におけるテストの互換性の問題があります。cmd/addr2line は、実行ファイルのデバッグ情報からアドレスをソースコードの行にマッピングするツールであり、その機能はOSやアーキテクチャに依存する部分があります。
以前から、TestAddr2Line というテストは nacl (Google Native Client) 環境ではスキップされていました。これは、nacl 環境が持つサンドボックス化された性質や、デバッグ情報の扱いの違いにより、テストが期待通りに動作しない、あるいは実行が困難であったためと考えられます。
今回の変更は、同様の問題が android 環境でも発生したことを示唆しています。Androidはモバイルプラットフォームであり、その実行環境はデスクトップOSとは異なる特性を持っています。例えば、ファイルシステムのアクセス制限、特定のシステムコールの利用可能性、またはデバッグ情報のフォーマットや配置方法の違いなどが、addr2line のテストの実行を妨げる要因となった可能性があります。
テストが特定の環境で失敗する場合、その環境での機能が完全にサポートされていないか、あるいはテスト自体がその環境の特性を考慮していない可能性があります。このコミットは、Android環境での addr2line のテスト実行に関する既知の問題を回避し、CI/CDパイプラインの安定性を保つための pragmatic な対応として行われました。これにより、Android環境でのビルドやテスト実行が、addr2line のテストの失敗によって中断されることを防ぎます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語および関連技術の概念を理解しておく必要があります。
-
cmd/addr2line:addr2lineは、Go言語のツールチェインに含まれるコマンドラインユーティリティです。その主な機能は、実行可能ファイル内のメモリアドレスを、対応するソースコードのファイル名と行番号に変換することです。これは、プログラムがクラッシュした際に生成されるスタックトレース(メモリアドレスのリスト)を人間が読める形式(どのファイルの何行目でエラーが発生したか)に変換する際に非常に役立ちます。デバッグ情報(DWARFなど)が埋め込まれた実行ファイルに対して機能します。 -
runtime.GOOS:runtimeパッケージは、Goプログラムのランタイムシステムとのインタフェースを提供します。runtime.GOOSは、Goプログラムがコンパイルされ、実行されているオペレーティングシステムを示す文字列定数です。例えば、Linuxでは"linux"、macOSでは"darwin"、Windowsでは"windows"、そしてAndroidでは"android"となります。この変数は、クロスプラットフォーム開発において、特定のOSに依存するコードの条件分岐によく使用されます。 -
nacl(Google Native Client): Google Native Client (NaCl) は、ウェブブラウザ内でネイティブコード(C/C++など)を安全に実行するためのサンドボックス技術でした。Go言語もかつてはNaClをターゲットプラットフォームとしてサポートしていました。NaClは、ブラウザのセキュリティモデル内で高性能なアプリケーションを実行することを目的としていましたが、後にWebAssemblyの台頭によりGoogleによって非推奨とされ、サポートが終了しました。このコミットが作成された2014年当時は、まだGoのターゲットプラットフォームの一つでした。 -
android: Androidは、Googleが開発したモバイルオペレーティングシステムです。Go言語は、Androidアプリケーションの開発をサポートしており、GoコードをAndroidデバイス上で実行可能なバイナリにコンパイルすることができます。Android環境は、デスクトップOSとは異なるシステムライブラリ、ファイルシステム構造、セキュリティモデルなどを持つため、GoプログラムやツールがAndroid上で動作する際には、特定の調整が必要になることがあります。 -
t.Skip()およびt.Skipf(): Go言語の標準テストパッケージtestingに含まれる関数です。t.Skip(args ...interface{}): 現在のテストをスキップします。引数に文字列を渡すことで、スキップの理由をログに出力できます。t.Skipf(format string, args ...interface{}):t.Skip()と同様にテストをスキップしますが、fmt.Sprintfと同じフォーマット文字列と引数を使用して、より詳細なスキップ理由をフォーマットして出力できます。 これらの関数は、特定の環境でのみ発生する問題や、テスト対象の機能がその環境でサポートされていない場合など、テストを無条件に失敗させるのではなく、意図的にスキップしたい場合に利用されます。
技術的詳細
このコミットの技術的な変更は、src/cmd/addr2line/addr2line_test.go ファイル内の TestAddr2Line 関数における条件分岐のロジックを修正することにあります。
元のコードでは、runtime.GOOS が "nacl" である場合にのみテストをスキップしていました。
if runtime.GOOS == "nacl" {
t.Skip("skipping on nacl")
}
この if ステートメントは、単一の条件(OSがnaclであること)をチェックし、その条件が真であればテストをスキップするという単純なロジックでした。
今回の変更では、この if ステートメントが switch ステートメントに置き換えられ、スキップ対象のOSに "android" が追加されました。
switch runtime.GOOS {
case "nacl", "android":
t.Skipf("skipping on %s", runtime.GOOS)
}
この switch ステートメントは、runtime.GOOS の値に基づいて複数のケースを評価します。
case "nacl", "android":は、runtime.GOOSの値が"nacl"または"android"のいずれかである場合にこのケースがマッチすることを示します。- このケースがマッチした場合、
t.Skipf("skipping on %s", runtime.GOOS)が呼び出されます。t.Skipfを使用することで、スキップされた理由(どのOSでスキップされたか)をより具体的にログに出力できるようになりました。これはデバッグやテスト結果の分析において有用です。
この変更により、TestAddr2Line は nacl 環境だけでなく、android 環境でも自動的にスキップされるようになります。これは、Android環境での addr2line のテスト実行に何らかの互換性問題や制約があることを示しており、テストの安定性を確保するための措置です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/addr2line/addr2line_test.go
+++ b/src/cmd/addr2line/addr2line_test.go
@@ -92,8 +92,9 @@ func testAddr2Line(t *testing.T, exepath, addr string) {
// This is line 93. The test depends on that.
func TestAddr2Line(t *testing.T) {
- if runtime.GOOS == "nacl" {
- t.Skip("skipping on nacl")
+ switch runtime.GOOS {
+ case "nacl", "android":
+ t.Skipf("skipping on %s", runtime.GOOS)
}
syms := loadSyms(t)
コアとなるコードの解説
変更されたコードは、src/cmd/addr2line/addr2line_test.go ファイル内の TestAddr2Line 関数にあります。
元のコードでは、以下の if 文を使用していました。
if runtime.GOOS == "nacl" {
t.Skip("skipping on nacl")
}
これは、「もし現在のOSが nacl であれば、"skipping on nacl" というメッセージと共にテストをスキップする」という単純な条件分岐でした。
変更後のコードでは、この if 文が switch 文に置き換えられました。
switch runtime.GOOS {
case "nacl", "android":
t.Skipf("skipping on %s", runtime.GOOS)
}
この switch 文は、runtime.GOOS の値が "nacl" または "android" のいずれかである場合に、その case ブロック内のコードを実行します。
case "nacl", "android":は、複数の値をカンマで区切って指定することで、いずれかの値にマッチした場合に同じ処理を実行できるGoのswitch文の機能です。t.Skipf("skipping on %s", runtime.GOOS)は、t.Skip()のフォーマット版です。これにより、スキップメッセージに現在のOS名(naclまたはandroid)を動的に含めることができます。例えば、Android上で実行された場合は「skipping on android」と出力され、nacl上で実行された場合は「skipping on nacl」と出力されます。これは、テストログをより分かりやすくし、どの環境でなぜテストがスキップされたのかを明確にするのに役立ちます。
この変更の意図は、addr2line のテストが nacl 環境と同様に android 環境でも問題なく実行できない、あるいは実行すべきではないという判断に基づいています。これにより、これらの特定のプラットフォームでのテストの失敗を防ぎ、CI/CDパイプラインの安定性を向上させることができます。
関連リンク
- Go言語
runtimeパッケージ: https://pkg.go.dev/runtime - Go言語
testingパッケージ: https://pkg.go.dev/testing - Go言語のクロスコンパイルに関する公式ドキュメント (Go 1.5以降の環境変数
GOOSとGOARCH): https://go.dev/doc/install/source#environment
参考にした情報源リンク
- Google Native Client (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/Google_Native_Client
- Go言語におけるAndroid開発のサポートに関する情報 (Go公式ブログなど): https://go.dev/blog/android (Go 1.4でのAndroidサポート導入に関する記事)
addr2lineコマンドの一般的な説明 (GNU Binutilsのaddr2lineなど): https://sourceware.org/binutils/docs/binutils/addr2line.html (Goのaddr2lineとは直接関係ないが、概念理解の助けとなる)