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[インデックス 19740] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のリンカである cmd/ld におけるコマンドライン引数のドキュメントの記述方法を改善するものです。具体的には、値を取るフラグのヘルプメッセージに、その値の型を示すプレフィックスを追加することで、一貫性と分かりやすさを向上させています。

コミット

commit 6012ac9b7948cec2e86870a4abd1278fa286c1cb
Author: Matthew Dempsky <mdempsky@google.com>
Date:   Tue Jul 15 17:05:35 2014 -0400

    cmd/ld: consistently document flags that expect values
    
    LGTM=minux, rsc
    R=golang-codereviews, minux, rsc
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/113970044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/6012ac9b7948cec2e86870a4abd1278fa286c1cb

元コミット内容

cmd/ld: consistently document flags that expect values

LGTM=minux, rsc
R=golang-codereviews, minux, rsc
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/113970044

変更の背景

Go言語のツール群、特にリンカ (cmd/ld) のコマンドラインフラグは、ユーザーがその機能を理解し、適切に使用できるように明確にドキュメント化されている必要があります。このコミット以前は、値を取るフラグ(例: -extld, -installsuffix)のヘルプメッセージの記述に一貫性がありませんでした。一部のフラグは値の型を示すプレフィックス(例: dir:)を持っていたのに対し、他のフラグは持っていませんでした。

このような不一致は、ユーザーが go tool ld -help のようなコマンドを実行した際に、どのフラグが値を必要とし、どのような形式の値を期待しているのかを直感的に理解するのを妨げる可能性がありました。このコミットの目的は、flagstr 関数で定義されるすべての値を取るフラグに対して、その値の型を示す短いプレフィックスをヘルプメッセージに追加することで、ドキュメントの一貫性とユーザーエクスペリエンスを向上させることにありました。これにより、ユーザーはフラグの目的と期待される入力形式をより迅速に把握できるようになります。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の概念について知っておく必要があります。

  • Go言語のツールチェーン: Go言語は、コンパイラ、リンカ、アセンブラなどのツール群から構成される独自のツールチェーンを持っています。これらはGoのソースコードを実行可能なバイナリに変換するために使用されます。
  • リンカ (cmd/ld): リンカは、コンパイルされたオブジェクトファイル(.o ファイル)やライブラリを結合し、最終的な実行可能ファイルや共有ライブラリを生成するツールです。Goのリンカは、Goプログラムのビルドプロセスにおいて重要な役割を担っています。
  • コマンドラインフラグ: 多くのコマンドラインツールと同様に、Goのリンカもその動作を制御するために様々なコマンドラインフラグ(オプション)を受け入れます。これらのフラグは、リンカの挙動を変更したり、特定の情報を提供したりするために使用されます。
  • flag パッケージ: Go言語には、コマンドラインフラグを簡単に解析するための標準ライブラリ flag パッケージがあります。このパッケージは、フラグの名前、デフォルト値、ヘルプメッセージなどを定義するための関数を提供します。
  • flagstr 関数: flag パッケージ(またはそれに類似する内部実装)において、flagstr は文字列型の値を取るコマンドラインフラグを定義するために使用される関数です。この関数は通常、フラグの名前、ヘルプメッセージ、そしてフラグの値が格納される変数へのポインタを引数として取ります。
  • ヘルプメッセージ: コマンドラインツールが -h--help オプションで表示する、各フラグの簡単な説明文です。このメッセージは、ユーザーがフラグの機能を理解するために非常に重要です。
  • 一貫性のあるドキュメント: ソフトウェア開発において、ドキュメントの一貫性は非常に重要です。特にコマンドラインインターフェースでは、ユーザーが異なるフラグ間で学習したパターンを適用できるように、記述スタイルや命名規則が一貫していることが望ましいとされます。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/ld/pobj.c ファイル内の main 関数の一部を変更しています。このファイルは、Goリンカの主要な部分であり、コマンドラインフラグの定義と解析が行われる場所です。

変更の核心は、flagstr 関数呼び出しの第2引数、すなわちヘルプメッセージ文字列の修正にあります。flagstr は、文字列型の値を期待するコマンドラインフラグを定義するために使用されます。このコミットでは、以下の4つのフラグのヘルプメッセージが変更されました。

  1. -extld: 外部リンカを指定するためのフラグ。
    • 変更前: "linker to run in external mode"
    • 変更後: "ld: linker to run in external mode"
    • ld: というプレフィックスが追加され、このフラグがリンカのパスまたは名前を値として取ることを示唆しています。
  2. -extldflags: 外部リンカに渡す追加フラグを指定するためのフラグ。
    • 変更前: "flags for external linker"
    • 変更後: "ldflags: flags for external linker"
    • ldflags: というプレフィックスが追加され、このフラグが外部リンカに渡すフラグ文字列を値として取ることを示唆しています。
  3. -installsuffix: パッケージディレクトリのサフィックスを指定するためのフラグ。
    • 変更前: "pkg directory suffix"
    • 変更後: "suffix: pkg directory suffix"
    • suffix: というプレフィックスが追加され、このフラグがサフィックス文字列を値として取ることを示唆しています。
  4. -tmpdir: 一時ファイルを配置するディレクトリを指定するためのフラグ。
    • 変更前: "leave temporary files in this directory"
    • 変更後: "dir: leave temporary files in this directory"
    • dir: というプレフィックスが追加され、このフラグがディレクトリパスを値として取ることを示唆しています。

これらの変更により、go tool ld -help を実行した際に表示されるヘルプメッセージがより明確になり、ユーザーは各フラグがどのような種類の値を期待しているのかを、ヘルプメッセージの冒頭を見るだけで理解できるようになりました。これは、Goツールチェーン全体のコマンドラインインターフェースの一貫性を高めるための小さな、しかし重要な改善です。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/ld/pobj.c ファイルの main 関数内で行われています。

--- a/src/cmd/ld/pobj.c
+++ b/src/cmd/ld/pobj.c
@@ -96,11 +96,11 @@ main(int argc, char *argv[])
 	flagcount("a", "disassemble output", &debug['a']);
 	flagcount("c", "dump call graph", &debug['c']);
 	flagcount("d", "disable dynamic executable", &debug['d']);
-	flagstr("extld", "linker to run in external mode", &extld);
-	flagstr("extldflags", "flags for external linker", &extldflags);
+	flagstr("extld", "ld: linker to run in external mode", &extld);
+	flagstr("extldflags", "ldflags: flags for external linker", &extldflags);
 	flagcount("f", "ignore version mismatch", &debug['f']);
 	flagcount("g", "disable go package data checks", &debug['g']);
-	flagstr("installsuffix", "pkg directory suffix", &flag_installsuffix);
+	flagstr("installsuffix", "suffix: pkg directory suffix", &flag_installsuffix);
 	flagstr("k", "sym: set field tracking symbol", &tracksym);
 	flagfn1("linkmode", "mode: set link mode (internal, external, auto)", setlinkmode);
 	flagcount("n", "dump symbol table", &debug['n']);
@@ -110,7 +110,7 @@ main(int argc, char *argv[])
 	flagcount("s", "disable symbol table", &debug['s']);
 	if(thechar == '5' || thechar == '6')
 		flagcount("shared", "generate shared object (implies -linkmode external)", &flag_shared);
-	flagstr("tmpdir", "leave temporary files in this directory", &tmpdir);
+	flagstr("tmpdir", "dir: leave temporary files in this directory", &tmpdir);
 	flagcount("u", "reject unsafe packages", &debug['u']);
 	flagcount("v", "print link trace", &debug['v']);
 	flagcount("w", "disable DWARF generation", &debug['w']);

コアとなるコードの解説

上記の差分が示すように、変更は flagstr 関数の呼び出しにおける第2引数(ヘルプメッセージ文字列)のみに限定されています。

  • flagstr("extld", "linker to run in external mode", &extld);
    • この行は、-extld という名前のコマンドラインフラグを定義しています。
    • 変更前は、ヘルプメッセージが "linker to run in external mode" でした。
    • 変更後は、ヘルプメッセージが "ld: linker to run in external mode" となり、ld: というプレフィックスが追加されました。これは、このフラグがリンカのパスまたは名前を値として受け取ることを示唆しています。
  • flagstr("extldflags", "flags for external linker", &extldflags);
    • この行は、-extldflags という名前のコマンドラインフラグを定義しています。
    • 変更前は、ヘルプメッセージが "flags for external linker" でした。
    • 変更後は、ヘルプメッセージが "ldflags: flags for external linker" となり、ldflags: というプレフィックスが追加されました。これは、このフラグが外部リンカに渡す追加のフラグ文字列を値として受け取ることを示唆しています。
  • flagstr("installsuffix", "pkg directory suffix", &flag_installsuffix);
    • この行は、-installsuffix という名前のコマンドラインフラグを定義しています。
    • 変更前は、ヘルプメッセージが "pkg directory suffix" でした。
    • 変更後は、ヘルプメッセージが "suffix: pkg directory suffix" となり、suffix: というプレフィックスが追加されました。これは、このフラグがパッケージディレクトリのサフィックス文字列を値として受け取ることを示唆しています。
  • flagstr("tmpdir", "leave temporary files in this directory", &tmpdir);
    • この行は、-tmpdir という名前のコマンドラインフラグを定義しています。
    • 変更前は、ヘルプメッセージが "leave temporary files in this directory" でした。
    • 変更後は、ヘルプメッセージが "dir: leave temporary files in this directory" となり、dir: というプレフィックスが追加されました。これは、このフラグが一時ファイルを配置するディレクトリパスを値として受け取ることを示唆しています。

これらの変更は、コードの機能的な動作には影響を与えません。リンカの挙動やフラグの解析ロジックは一切変更されていません。純粋に、ユーザー向けのヘルプメッセージの表示形式を改善し、Goツールチェーン全体のドキュメントの一貫性を高めるための修正です。

関連リンク

  • Go言語の flag パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/flag
  • Go言語のリンカに関する一般的な情報(Goの公式ドキュメントやブログ記事などを参照)

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコード(特に src/cmd/ld/ ディレクトリ)
  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のコードレビューシステム (Gerrit) の該当コミットページ: https://golang.org/cl/113970044
  • flag パッケージの一般的な使用方法に関するGoのチュートリアルやブログ記事